スローフードでつながる⑥ 7月20日

投稿日 2012年08月01日
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国際的な運動であるスローフードの支部は、スローフードという言葉がイタリアで生まれたこともあってコンビビウム(convivium)と呼ばれています。コンビビウムとはラテン語で<饗宴・一緒に食べる>を意味しますが、語源は<ともに生きる>です。日本訪問の最終日、スローフードベルリンのメンバーは、栃木県足利市のワイナリー『ココファーム』を訪ねました。ココファームでは、知的障害を持つ人々がブドウを栽培し、ワインを作り、ともに生きています。

前日までが嘘のような肌寒さえ感じたこの日、スローフードベルリンのメンバーは貸し切りバスで栃木と群馬の県境に近い足利市へ向かいました。そこには、山の40度近くの急斜面にブドウ畑があります。「ドイツにも、こんな傾斜地のブドウ畑が多いんだ……」と、メンバーの一人がつぶやきました。そこは、かつて日本の学校で「特殊学級」と呼ばれていたクラスの先生と障害を持つ子供たちが、1950年代から農作業による自立を目指して開墾したブドウ畑です。
ココファームには、うれしいサプライズが待っていました。ココファーム専務でスローフード栃木のメンバーでもある池上知恵子さんが、ブドウ畑の頂上の広場に冷えた『NOVO』を用意して待っていたのです。シャンペンタイプのワインNOVOはココファームのトップブランドで、2000年沖縄サミットの公式晩餐会の乾杯に使われました。眼下にココファームのワイナリー、遠くに足利の市街地を望む広場での乾杯に、一行は大喜び。清らかな空気とNOVOを堪能しながら、しかしさすがにドイツの支部だけあって、ココファームのブドウに関する専門的な質問がいくつも池上さんに投げかけられました。

ココファームは、日本で有機農法が語られるずっと前から、除草剤をまったく使わずブドウを栽培してきました。それは、入園者が働くために草取りという人手のかかる作業を意図的に用意する必要があったからと、入園者が畑に落ちている物を拾って口にしても安全にしなければならなかったからです。多くの入園者がブドウ作りの農作業をしながらここで長期間生活をともにしています。なかには、入園者同士で結婚する人も、ここで一生を終える人もいるそうです。
ココファームでは安全なブドウを作り、そのブドウから美味しいワインを作り、そしてそのワインを売って人々が暮らしています。人と農業と経済のつながった輪が、そこにありました。スローフードという言葉が島村菜津氏の著書『スローフードな人生!』(新潮社刊)で日本に輸入される以前から、そこには本来の意味でのコンビビウム(convivium)があったのです。

ブドウ畑を見上げる麓のレストランで、ココファームのさまざまなワインを味わいながら、あるベルリンのメンバーがこう言いました。
「この旅の終わりに、これほどふさわしい場所はありません」
ココファームには、人々がともに生きる眼差しがあふれています。人と人がちゃんとつながっていれば、ことさら<交流>を言い立てなくても、スローフードのコミュニケーションは言葉や地域を超えて広がるのです。スローフードのきずなは組織ではなく、人が作ります。

スローフードベルリンの日本訪問には、スローフードドイツが2ヶ月に一度発行する雑誌『SlowFood』の編集長Martina Tschirner(マルティーナ・チルナー)さんが同行していました。スローフードドイツは、会費75€(ユーロ)で、会員数約11,000人。毎年、ドイツ南部のシュツットガルトで SlowFood Messe を開き、約6万人を集めます。また、“Teller Statt Toune”という規格外野菜や食の廃棄物を活かす運動や、最近は農業政策の変換を求めて農家のトラックターでデモを行うなど政治活動もしているそうです。ドイツの『SlowFood』誌は1号28,500部発行され、一般書店でも一冊4€で販売されています。今回の日本訪問のレポートはスローフードジャパンから発表されるのではなく、スローフードドイツが発行するその雑誌にドイツ語で掲載される予定です。

スローフードベルリンの会員数は、日本とは少し会員システムが異なりますが、約500人。さまざまなグループに別れて活動しています。そのひとつの料理研究グループのメンバーでベルリン在住の河野章子さんが、スローフードベルリン日本訪問の原動力でした。さらに、一行の滞在中はずっと日本語とドイツ語の通訳をしてくださり、とくに会話が活発に交わされる食事の席などで河野さんはゆっくり料理を味えず、申し訳なく思っています。お疲れ様でした。本当にありがとうございます。
河野さんがいなければ、スローフードジャパン東京/神奈川ブロックの各支部やスローフード気仙沼と、スローフードベルリンとのきずなは生まれませんでした。

日本を訪れたスローフードベルリンの仲間

エルケ・マイヤー(Elke Meier)さん/トーマス・マレック(Thomas Marek)さん
ヘンナー・ゼンフ(Henner Senf)さん/ウルリヒ・グライナー(Urich Greiner)さん
シモーネ・ツォロ(SimoneZorr)さん/クリスティアン・ツォロ(Christian Zorr)さん
ニック・チルナー(Nick Tschirner)さん/マルティーナ・チルナー(Martina Tschirner)さん
ハドソン・レッドウォン(Hudson Ledwon)さん/ペートラ・ブラートフィシュ(Petra Bratfisch)さん
河野章子さん/河野直登さん

コメント

コメント(3) “スローフードでつながる⑥ 7月20日”

  1. スローフードというのは、
    「ゆっくり生きる&ともに生きる」という意味だと、
    私は思っています。
    秦野のメンバーにもそう説明しています。
    幸せに生きる‥ことは、案外シンプルなものではないかしら。
    しかし‥秦野コンビビウムをつくってから、私の生活は、あまりスローではなくなってきましたが‥(笑)
    みんなが喜ぶ笑顔を見るのが、私にとっての幸せです。

  2. Shoko

    conviver(一緒に暮らす)という単語は今でもイタリア語で使われています。またconvivium はローマ時代に貴族官僚が同じテーブルにつき食事をしながら意見交換を表わした場です。その当時はルクルス(豪華、贅沢を意味するスクソーの語源となった人)が素晴らしい食事をカエサルに提供した事でも有名です。

    どちらの意味でも、人は同じ時間と同じ場所を共有しあい、同じものを食べるという事で、「ともに生きる」という理解がとても正しいと思います。それには人と人のみならず、人と自然の結びつきも重要です。

    今回参加したメンバーは、仕事面で人とのつながりはあっても自然とのつながりがあまりない人がほとんどでしたので、日本で自然の中で自然と共に生活をしている方々に色々とご教授いただいたことをとてもうれしく思っています。

    「共に生きる」、素晴らしい事だと思います。
    日本の皆様、今回は本当にありがとうございました。

  3. Shoko

    上のコメントの訂正

    conviver → convivere
    スクソー → ルクソー(英語のLuxe)