番外編・カンヌからのたより②

投稿日 2012年05月27日

南フランスのカンヌに滞在しているスローフードすぎなみTOKYOのメンバーが、現地から再び便りを届けます。

残念ながら、『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(監督/若松孝二)はカンヌ映画祭での受賞を逃しました。でも、この作品がカンヌ映画祭にノミネートされて正式に招待されたこと自体が、世界の評価のひとつを表していると思っています。
さて、映画祭ではインタビューを受ける監督や俳優を除くと、スタッフは意外に時間を持て余します。すでに通い慣れたマルシェ(?)の角の食堂でひとり晩飯を食べていると、夜の闇が少しずつ濃くなりました。

ぼくはヨーロッパの夏の暮れゆく長い時間を、店の外でこうやって美味しい物を食べながら、周囲をボンヤリ眺めて過ごすのが大好きです。そうやってマッタリしていると、スローフードの底を流れているのは、結局「食べ物への愛」ではないかと思えてきます。スローフードの社会的役割、地域社会との関係、環境や健康からの観点などを否定するわけではありません。でも、食べ物への愛があるからこそ、それら食べ物を巡る状況に思い至るのです。美味しい食べ物は、人に幸せを感じさせます。だからこそ、人はその美味しい理由を考え、それを考える視線がお皿の外に至ります。美味しさへの語らいが蘊蓄を超え、美味しさの存在理由を語り始めたときに誕生したのが、スローフードという言葉とその考え方なのではないでしょうか……。
この映画の主人公である三島由紀夫は、かつて<人間の存在は皮膚から一歩も外に出る事ができない>と言っていました。三島が精神と肉体の美しさに拘った理由は、そこにあります。しかし、人間は食べ物を皮膚の一種である胃や腸などの粘膜を通して外部から吸収します。<皮膚から一歩も外に出る事ができない>人間は、じつは食べ物によって<外>とつながっているのです。もし、三島由紀夫が生きていた時代にスローフードという言葉があったら、彼は何を語っただろうか……などと、とりとめもない妄想が膨らむ旅の時間です。

ライトアップされたカンヌの丘の城と、港を埋める豪華ボート、街並み)

番外編・カンヌからのたより

投稿日 2012年05月25日

第65回カンヌ映画祭『ある視点』部門にノミネートされた作品の脚本を書き、現在カンヌに滞在中のスローフードすぎなみTOKYOのメンバーからの便りです。

映画祭開催中のカンヌは人であふれ、まさにお祭り騒ぎです。その喧噪のなか、旧市街から新市街地行く坂の途中でマルシェ(市場)を見つけました。マルシェが開くのは昼過ぎまでだそうです。そこで、午前中に時間を見つけて覗いてみました。すると、まず、皺がたくさん入った奇妙な形のトマトが目に飛び込んできたのです。これは、珍しい!! 売っている人の話では、「カル・デ・ブフェ」、つまり「牛の心臓」という名のトマトだそうです。確かにそう言われれば、なにやら似ているような気もしますが、牛の心臓にはこんなに皺があったかな……?。

地中海に面したカンヌなので魚介類はもちろん、マルシェにはハムやチーズ、オリーブの実やキノコ、果物など暮らしに欠かせない食材がずらりと並んでいます。マルシェは、まさにその土地の「食のテーマパーク」なのだと感じさせられました。ここカンヌでは、工業化された食材に並んで、「おッ、これは何だ!?」と声を上げたくなるようなスローフード的な食材も多く売られているのが特徴です。地中海の陽光と豊かな食材が多くの国から人々を引き寄せ、世界的な映画祭を生んだのかもしれません。なにしろ、映画の人たちには食いしん坊が多いですから……。しかし、残念ながらカンヌにはスローフードの支部(コンビビウム)はないようです。

カンヌは坂の多い町です(↓写真上)。その坂を下りた海岸に、映画祭の会場となる「パレ・デ・フェスティバレ・エ・デ・コングレ」の現代的な建物があります(↓写真中左上)。じつは、この建物の中で行われる映画作品の見本市が、カンヌ映画祭を大きくしました(↓写真中右上)。世界各国の映画制作者と配給会社が作品の上映を取引するのです。そして、有名なレッドカーペットの前では(↓写真中右下)、強い日差しを浴びながら報道陣が汗だくで場所取りをしていました(↓写真中左下)。『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(監督/若松孝二)は、明日(こちらでは25日)の夜がいよいよ公式上映です。ぼくが脚本を書いた映画を、世界は再びどう評価するのか?……は、さておき、昨夜は貝とエビをたらふく食べました(↓写真最下段)。

追記:

「牛の心臓」(トマトです!!)をかじりました。日本の桃太郎のような酸味はなく、フルーツトマト系の甘さもなく、外見とは裏腹にパステル画のような味でした。

東日本大震災 支援⑭
高円寺・被災地応援マルシェ vol.4

投稿日 2012年05月03日

あの日から、二度目の春が巡ってきました。私たちは東日本大震災の被災地を継続的に支援するため、毎年杉並区高円寺の10の商店街が連携して開く『高円寺びっくり大道芸』の会場を借り、今年も4月28日と29日にJR高円寺駅南口広場で応援マルシェ(市場)を開きました。

数年前に生まれたバイコット(BUYCOTT)という言葉は、ボイコット(BOYCOTT)とは正反対に消費者が商品を買ってその生産者を支える運動を意味します。生産は消費がなければ成り立ちません。大量生産・大量消費によって問われるのは、消費者の意識の在り方です。良い食材・食品を作る小生産者を守ろうとするスローフード運動は、その方針のなかにバイコットの考え方を強く持っています。私たちが行う被災地応援マルシェは、被災地の生産者の方々の商品の購入し、困難な状況で生産を続けようとする人たちの僅かながらも力になりたいと願う、バイコットのひとつです。

汗ばむほどの晴天に、出店してくださったのは岩手県大槌町のエルマーノ洋菓子店、味噌・醤油の醸造元・岩手県陸前高田町の八木澤商店、私たちが毎月勉強会を開く「六本木農園」関連の生産者、福島県いわき市出身の女将がいる中野区野方の居酒屋「もじよ」など。私たちはスローフード気仙沼の男山本店のお酒、スローフード福島の人気酒造のお酒、斉藤さんのキュウリ、丹野さんの味噌などを直接販売しました。そして、東京農大の学生たちが声をからして通行人に呼びかけてくれた結果、売れゆきは好調。ほぼ完売でした。                       東日本大震災から一年過ぎた春、互いに支え合うバイコットを通して新たな絆が生まれつつあります。