東日本大震災 支援⑬
スローフード新宿応援団からのたより

投稿日 2012年03月15日

あの日から1年たった3月11日、
スローフード新宿応援団は岩手県岩泉町のハム工房「モーとんふぁみりー」http://www.protoscience.co.jp/iwashin/mooton/と一緒に、東日本大震災のメモリアル<イーティング>を新宿・四谷地域センターで行いました。

この日使われた食材は、スローフードの「ARK(味の箱船)」にリストアップされている岩泉町の日本短角牛。岩泉町では放牧されていた牛の一部から、福島原発災害により基準値以下ですが放射性物質セシウムが検出されました(60ベクレル/1㎏。政府の基準値は4月から100ベクレル/1㎏)。健康には影響ないとされるその肉の料理を食べながら、原発災害が酪農に与えた影響と、被災者の方の話を聞こうという<イーティング>でした。
(↑上左・コールドビーフ 上右・ココット 下左・ビーフシチュー 下右・ハンバーグ)

参加者は、大人31人子供6人。子供や授乳中の母親にはセシウムフリーの食材が用意されました。調理は、仙台のイタリアンレストラン「アルフィオーレ」のシェフ目黒浩敬さんhttp://www.jiyujin.co.jp/organic/page/?page_id=alfiore とモーとんふぁみりーの畠山幸誠さんが担当。目黒さんは自家菜園で店に出す野菜を作り、ハムやパンチェッタなども自分で作っています。「完璧に安全な食材を追求してゆくと、地元の農業や漁業を潰す事になりかねません。厳しい選択ですが、岩泉の短角牛を守るために、今日はこの肉を使います」と、目黒さん。

岩泉町の隣・宮古市の畠山さんは津波で家族と住んでいた自宅と働いていたレストランを失い、いまは仮設住宅に住みながらモーとんふぁみりーに通っています。ときおりメモに目を落としながら、被災したときの状況を語る畠山さん。そこには、テレビのインタビューとは異なり、直接話を聞かなければわからない言葉の重さがありました。その重さが、参加者一人一人の胸に迫ります。「高台への坂道を走って登ったとき、振り返るとそこは海でした」 畠山さんの話が終わったのは、偶然にもあの午後2時46分。
参加者全員で、犠牲者への黙祷を捧げました。

モーとんふぁみりーの<工場長>こと穴田光宏さんは、「普通は、牛肉からセシウムが検出されても、基準値以下であれば数値を記さずに販売されます。でも、ぼくは事実を知ってもらった上で、うちの商品を買って欲しいんです。それが、生産者の支援につながります」 モーとんふぁみりーが販売するビーフジャーキーには、検出された放射線量が記されています。

この<イーティング>に参加したコラムニストの松沢呉一さんは、こう語ります。「東京にも蛇がたくさんいて、この建物の裏にもいます。でも、気がつかないのです。人間には、嫌な物を見ないで済ませる能力があり、蛇を見たくない人は自分で見えないようにしているのです。放射能も同じで我々には見えませんが、それをいいことに、我々が放射能に汚染されている現実を見ないで済ませようとする人たちがいるのです」
スローフードは、原発災害に「観て見ぬ振り」はできません。
私たちは、お皿の外を見るのですから……。

(注:スローフード新宿応援団はスローフードのサポート組織で、スローフードジャパンに加盟する支部ではありません)