クロマグロ禁輸否決・・・遠洋漁業と、“G8”の一員であることと

投稿日 2010年03月20日

ワシントン条約の締約国会議で、懸案の大西洋クロマグロ禁輸案が否決されたのは、とりあえず日本の庶民の食卓にとっては、朗報といえるでしょう。

しかし、海洋資源を世界の海に出かけていって獲りまくる、という行動に対しては、今後も風当たりが強まるように思えます。

ここへきて、連日注目されているのが、“近大マグロの完全養殖”。
http://www.flku.jp/aquaculture/tuna/index.html

昨年訪問してきた長崎県対馬でも「トロの華」のブランドでマグロ養殖を行っていますが、これは“畜養”ですね。

畜養については、結局は天然資源を獲ってきて育てる、莫大な量のえさをその間必要とする、そのための環境や生態系への影響を懸念する声も聞かれます。
http://www.maguro-jp.com/fishing/culture/

では、完全養殖ならいいかといえば、やはり意図的にというか、狭いところにいるので結果的にというべきか、トロの部分を増やしながら養殖する、というのがちょっと気になります。

これはしかし、消費者の側の問題かもしれません。
幕内秀夫さんが言うように、消費者が「美味しい」と言うとき、必ず「甘い」「やわらかい」が背景にある、逆に言えば「甘く」「やわらかく」することが売れる決め手となって、そういう食品ばかりが開発され、味覚や噛むことの衰えが指摘されています。

かといって、天然クロマグロをえんえんと大西洋まで出かけていって獲る、そこに費やされるガソリンとCO2、そして他国への配慮を考えると、大差で今回否決されたとはいえ、この際、日本人として反省すべき点もあるかもしれません。

さて、今回、禁輸“賛成”に回ったのは欧米諸国が中心。
これは、G8メンバーと、ほぼ重なります。

G8メンバーは、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国、フランス、イタリア、カナダ、ロシア。

日本は、欧米諸国に交じって、唯一アジアでG8のメンバー。
これが、ある種の日本人の潜在的誇りであるように思えます。

しかし、同時に禁輸“賛成”国のほとんどが、リーマンショック後の「金融危機」であえいでいる国。

新興国を入れたG20でないと、現在の経済的勢力図を反映していないのは明白です。
日本も、G8–欧米諸国の一員であることをいつまでも誇りに思っていると、「金融危機」であえいでいる国々と一緒に沈んでいってしまうのでは?—-なんて言うと、言い過ぎでしょうか。

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極秘リビア説得工作が奏功…クロマグロ禁輸否決
3月20日1時29分配信 読売新聞

 大西洋クロマグロの禁輸が最大のテーマとなったワシントン条約の締約国会議は、予想外の大差でモナコや欧州連合(EU)の禁輸提案を否決し、「ドーハの悲劇」は回避された。

 予想外の日本圧勝の裏には、途上国を中心に欧米主導の禁輸案への反発のうねりと、日本政府の周到な準備があった。

 ◆極秘訪問

 否決の流れを作ったのはリビアだった。18日の第1委員会では、リビアの代表が同国の最高指導者カダフィ氏ばりに、「(マグロの国際取引禁止は)先進国による陰謀だ!」と声高に主張し、途上国の反欧米の心情に訴えた。さらに、議論の打ち切りと即時採決を提案し、急転直下、否決へとつながった。

 実は今年2月末、水産庁の宮原正典審議官が極秘裏にリビアを訪問し、締約国会議でのクロマグロ禁輸反対に支持を求めていた。日本の説得工作で、当初関心が低かったリビアから、最終的には「日本支持」の言質を引き出すのに成功した。

 国際会議では途上国と先進国の対立がしばしば表面化する。いつもは途上国と利害を異にする日本が周到な準備を進め、今回はうまく途上国の欧米主導に対する不満をすくい上げ、“反欧米”と言えるうねりを引き出せたことが、大事な局面で奏功した。

 ◆中・韓とも連携

 今回の会議では、サメ類の商業取引を制限する案も提案されている。中国が、漁業規制の波がクロマグロからサメ類などに飛び火し、フカヒレなどの貴重な食材の確保に影響が出ることを懸念し、日本と共同歩調をとった点も大きい。

 委員会採決で、漁業国のアイスランドが秘密投票を求め、認められたことも日本にとっては有利に働いた。禁輸反対派のアイスランドはEUへの加盟交渉中だ。

 新興国や中国、韓国との連携や、欧州内の足並みの乱れを確認し、事前の劣勢との見方が一変。日本政府は次第に否決に自信を深めていた。

 「いまなら勝てそうです」

 赤松農相のもとに、17日、ドーハの町田勝弘水産庁長官から電話報告が入ると、赤松農相は「勝てるなら一気呵成(かせい)にやろう」と、即日採決で否決に持ち込もうとするアラブ諸国に乗る腹を固めた。

 「モナコ大敗」。農林水産省内の対策室に、マグロ禁輸案否決を伝える現地・ドーハから電話が鳴ったのは、マグロ禁輸の議論初日の18日深夜だった。

(ドーハ 是枝智、実森出、カイロ 福島利之)

最終更新:3月20日1時29分